La Marsa
11日目 La Marsa Kの日記
 安のうちに朝を迎えた。念のため、フロントのお姉さんに、キャンセルがなかったかどうか、聞いてみる。彼女は申し訳なさそうに首を横にふった。この辺りで他にホテルがないかどうかも尋ねたが、一軒紹介してくれたのは、前日に訪ねたのと同じホテルだった。やはり、そこにもう一度行ってみるしかないらしい。中庭でさっさと朝食を済ませると、さっそくそのホテルへとむかった。
 例のホテルでは昨日のおじさんが「ボンジュール」と明るく迎えてくれた。これは可能性があるのかもしれない。気分も軽くなる。「部屋は空きましたか?」とさっそく尋ねると、彼は急に昨日のことを思い出しはっとしたようだった。(すっかり忘れていただけなのだ)ちょっと待ってなさい、というと彼は確認の電話を入れ始めた。今日出るはずの人がいるらしい。しかし、結局、空きはでなかった。がっかりする私たち3人を見て、おじさんがラ・マルサにあるドイツ人女性の経営するペンションを紹介しようと言ってくれた。ラ・マルサはここから一駅のところにあるビーチのきれいなリゾート地だ。気が進まなかったが他にどうしようもない。とにかく、聞いてもらうことにした。彼は再び電話をかけ始めた。
 その間、私たちはホテルのテラスをぶらついた。なかなかいいホテルだ。値段のわりには雰囲気もいい。古いが趣のある(コロニアル風)建物。高台にあるのでテラスからは地中海が一望できる。開放的なロビーでは大理石の床に大きな籐のソファーが置かれ、からからと天井の扇風機が回っていた。ここに泊まれないのは本当に残念だと思った。
 しばらくしておじさんが私たちを呼んだ。一泊10TDで泊まることができるという。私たちはすぐに承諾した。一泊分の予約をいれてもらう。
 ぎりぎりまでねばって12時ごろホテルをチェックアウト。バックパックをまとめて名残惜しくシディ・ブ・サイドを後にした。T.G.M.を使ってたった一駅の移動である。ホテルのおじさんにもらった住所をたよりに駅からとぼとぼと歩く。目的のペンションは賑やかな駅からだいぶ離れた住宅街にあった。一見ふつうの住宅で何のサインも出ていない。呼び鈴を鳴らすと、出てきたのは50代といったところのドイツ人女性だった。彼女は私たちを部屋へ案内した。決して親切な感じではない。チュニジア人の明るさに慣れた私たちにはかなり違和感があった。彼女はここチュニジアで一人、ペンションを経営しながら生計をたてているようだった。どんな訳があるのだろうか。私たちが一泊しかしないと確認すると、ろこつに嫌な顔を浮かべた。短期滞在は基本的に歓迎されないところなのだ。ダブルベッドが置かれた部屋と続きになったシングルの部屋がひとつ。今までのホテルと比べると機能的で清潔だがそっけない感じの室内。チュニジアにいると言うよりはドイツにいるような気がした。食事はなし。外のカフェでとるようにと言うことだった。
 彼女は一通り説明を済ませると、鍵を渡して出かけてしまった。夕方まで戻らないらしい。私たちもここにいても仕方がない。とにかくペンションを出た。周りにはたいして見るところもないようなので、チュニスの中心まで出てみることにした。駅からバスで20分ほどでチュニスの中心ハビブ・ブルギバ通りまで到着。相変わらず大勢の人で賑わっている。
 実は、地元のフランス語の新聞Le TempsでJapan Foundation主催の日本人アーティストの展覧会があるという記事を見つけていた。3人ともどんなものか興味があった。
 とりあえず、昼時なのでまず何か食べることにする。大通りから一本入った路地で地元の人で繁盛する店を見つけた。レストランと言うよりはファースト・フードのスタンドと言った感じだ。チュニスでは忙しい人が多いのかこうした立ち食いの店が多い。値段も手頃だ。店先にあるアラブの名物、ラム・チップのサンドイッチを注文した。他のアラブ諸国やギリシャなどではこれをピタのような白いパンに挟んで食べる。が、チュニジアではフランス式のバゲットを使うのが一般的。これもフランスの領土だった名残なのだろう。
 店の若い男の子に展覧会のある場所を尋ねる。他の店員にも聞いてくれた。どうやらこの近くらしい。彼らのおかげで会場はすぐに見つかった。想像していたよりもクラシックな大理石の建物だった。中はがらんとしていて人もまばらだ。建物の様式とは対照的に横尾忠則のCG作品などが並べられていた。日本人はもちろんのこと、チュニジア人の客も少ない。若い男の子が一人真剣に作品に見入っていたのが印象的だった。入場は無料、しかも立派な図録も無料だというのに関心をしめす人はこんなにも少ないものだろうか。チュニジア人の日本への関心の低さを思い知らされた出来事だった。
 


これもシディ・ブの高級別荘。咲いてるのはブーゲンビリア。上からのぞいているのはモスクの尖塔。


シディ・ブの街角。色彩があざやか。


 その後、メインストリートをぶらつき、T.G.M.を使ってラ・マルサへ帰ることにした。夕方、駅からひたすら海の方へあてもなく歩いた。ビーチでは日焼けを楽しんだ観光客たちがそろそろ引き上げるところだった。
 人もまばらなビーチでしばらくぼうっとする。夕日がうっすらと空をオレンジ色に染めている。ビーチ沿いに歩くと、通りがだんだん賑やかになってきた。どうやらちょっとした街があるらしい。
 チュニジアでは珍しいイタリアンレストランやアイスクリーム屋などが軒を連ね、ヨーロッパ系観光客で賑わっている。いかにもリゾート地といった感じだ。それでも、しばらく歩くとモスクや市場など普通のチュニジア人の生活エリアに入った。なんだかほっとする。地元の親子連れが食事をとる普通の食堂を選んで軽い食事をとる。その後、街の中心で野外にある大規模なカフェを見つけた。カフェの真ん中では大きなラクダが木につながれ、家族連れが多い中、子供達の人気者となっていた。私たちもラクダの見える位置にテーブルをとり、カフェ・オレを注文。空は既に真っ暗だった。
 帰り道、タイルや陶器を売る店をのぞいて、最後のTDを使って買い物をした。後はペンション目指して帰るだけだった。宿屋の女主人はもう帰っていた。どうやら同じく下宿しているらしいドイツから来た若い女の子と話こんでいた。私たちには決して見せない笑顔で。やはり同郷の知り合いの訪問は嬉しいのだろう。彼女の人間らしい部分を見た気がした。
 一人ずつ順番にシャワーを浴びて寝ることにした。私とUは翌朝、ブリュッセルへ。Eは 午後の便で単身パリへ発つ。明日の夜はもうチュニジアを出ているのだと思うと、寂しいような落ちつかない気持ちだった。旅をする度に同じ気持ちを味わうのだが・・・・

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